column 久留米市

数字を追う前に、現場を歩く

2026.04.04
株式会社サンカクキカク
久留米市
経営者 情報
株式会社サンカクキカク

「数字を追う前に、現場を歩く」

— 株式会社サンカクキカク / 経営判断の根拠は、エクセルよりも靴底に眠っている

経営者が数字を重視するのは当然だ。売上、利益、在庫回転率、顧客単価。これらは企業の健康状態を示す指標として有効だ。しかし、数字だけを追っていると、見えなくなるものがある。それは数字が生まれる前の、現場の空気だ。

ある卸売業の社長は、毎月の売上報告を見て頭を抱えていた。前年同月比で15%の減少。原因は何か。営業部長は「景気の影響」と答えた。社長は納得できず、翌週、自ら営業車に乗って担当者と共に顧客を回った。

3件目の訪問先で、社長は気づいた。顧客の倉庫に、自社の商品が異常に少なく、競合他社の商品が目立っていた。聞けば、半年前から競合が納品頻度を週1回から週2回に増やし、自社は従来通りの週1回を維持していただけだった。顧客は「頻度が増えたので、ついそちらに流れました」と素直に答えた。

数字に表れるのは結果だ。原因は現場にあった。営業部長は数字の減少を「景気」と抽象化し、自社の納品頻度が競合に遅れを取っているという具体的な事実を見落としていた。これは能力の問題ではなく、構造の問題だ。本部にいる管理者が現場の微細な変化を感知するのは困難だ。

社長は納品体制を見直し、週2回配送を開始した。半年後、売上は前年同月比を回復した。投資したのは配送コストの増加だけだ。顧客の離反を防ぐための広告費や値引きよりはるかに安上がりだった。

この社長の行動は特別なものではない。ただ、数字を見た後に「現場を歩く」という工程を挟んだだけだ。多くの経営者はこの工程を飛ばし、数字の分析だけで結論を急ぐ。エクセルのピボットテーブルは便利だが、倉庫の棚を見ることは代替できない。

現場を歩くことのもう一つの効用は、従業員の意識変化だ。社長が現場に出ると、担当者は報告の質が変わる。本部に届く前に、自らの目で確認した事実を語るようになる。これが組織の情報の質を底上げする。

もちろん、現場主義が万能ではない。大規模な組織では、社長が全ての現場を回ることは物理的に不可能だ。しかし、重要な数字に変化が生じた時だけでも、上位3つの要因について現場を確認する習慣を持つことは可能だ。

経営者にとって現場歩きは「時間の無駄」に見えることが多い。会議や交渉、文書処理に比べ、効率性が低い。しかし、正しい判断を下すための情報収集として捉えれば、これ以上に効率的な投資はない。誤った戦略を立てて修正するコストを考えれば、現場歩きの時間は安い。

最後に一つ。現場を歩く際の注意点がある。それは「指示を出さないこと」だ。社長が現場で即座に改善を指示すると、従業員は報告をためらうようになる。社長の役割は情報収集であり、判断は本部に戻ってから下す。現場で耳を傾け、目で見て、黙って帰る。これが現場歩きの鉄則だ。

数字は結果を語る。現場は原因を語る。両方を聞いて初めて、経営者は正しい判断ができる。